より安価に、より大量に、より美しく
染織文化の発展と普及を支えた「染形紙」

 右図にあるように、染織には、糸を染めてから織る「織物」と、織り上げた生地を染める「染物」に大別されます。このうち「染物」で布を染め付ける技法には、不溶性の染料や顔料を生地に直接塗り付ける「捺染(なっせん)法」と、染料を溶かした染液の中に生地を浸して染め出す「浸染(しんせん)法」とがあります。
 しかし、浸染法の場合、単純に布全体を染液に浸せば、無地の生地になってしまいます。そこで浸染法で布に模様を描くために、地布だけを染めて模様となる部分を染め残す方法が生み出されました。これが「防染法」です。
 防染法は、柄を描きたい部分に防染(染料をはじく)作用のある糊(水溶性のモチ米糊(ネバ糊)や油性の型蠟(ろう))を塗ったり、糸でくくったり、板で挟むなどして生地を染め残す方法です。
 本館で紹介する「染形紙」は、主に浸染法の一種である「藍染め」を行う際に、渋紙に文様を切り抜いた型紙を生地に置いて防染処理を施して文様を染め出すための道具。精緻で多彩な柄を、安価に大量に染色することができる画期的な技法として、わが国の染織文化の普及と発展に大きく貢献した技術でした。

「織物」と「染物」

製品や形態、染色技法によって
多彩な発展を遂げた染形紙

 一般に、「形(型)紙」を用いた染織法は、染色される製品や、型紙の形状や大きさ、それぞれの技法ごとの工程や用途などに応じて多くの種類が存在します。その多様さは、この染色技法が、いかに多くの製品を通じて日本の染織文化を支えていたかという証しでもあります。
 以下、『日本の美術12 染の型紙』(1994年至文堂刊)における分類を紹介しておきます。

■染色品・柄別分類
友禅型、小紋型、長板本染め型(長板中形)、折付け中形(注染型)、手拭い型、紅型、更紗型、着尺型、付下げ型、訪問着(絵羽型)、風呂敷型、法被型、襖型、半襟型、風好型(捺染型)、蒲団型、ほごし型(銘仙型)、モスリン型、絞り型、羽織裏型、常盤紺型、風通型、刺繍型、絣(かすり)型
■形態別分類
一枚型、返数型、中糸型(糸入れ型)、糸掛け型、紗張り型、振替え型、丸口型、京送り型、折付け型、二枚型(主型・消型)、二枚型白型、籠付け型、小本(細かい柄の型を彫り起こす時の型彫りの基本形。四方から型を繋ぐ「四方口」が特色)
■染色技法別分類
かき分け型、写し型・刷り型、注染型、挿し分型(一色型・細川型・地白型・染り型)、籠付け型、ウルミ型、ロール型(ロールにエッチングして捺染する型。糸目の綺麗な縞も引ける)、スクリーン捺染型(紗を薬品処理して模様を作った型)、写真型(発光剤〈感光剤〉使用で成型された型紙)
■その他
別注型(誂型)、仕入れ型(見込み生産型)等の呼び名があり、いずれも用途は小紋染め、友禅染め、更紗染め、浴衣染め、手拭い染め、風呂敷染め、布団染め、前掛け染め、印半纏染め等に利用されるなど、その種類と用途は限りなく広い。

日本の染織文化と染形紙 染形紙の定義と種類 「形紙」と「型紙」 ▷染形紙の歴史 ▷日本各地の染形紙