丈夫で軽く、扱いやすい和紙を採用
三木では反故紙の再利用も

布になんらかの柄を型染めしようとする場合、古くからさまざまな方法が用いられてきました。金属版や石版、木版から竹版、皮革版など、世界各地で多くの染め型の素材が試されましたが、わが国の場合、幸いにも強度の高い和紙の製法が確立していたことで、「染形紙」が一般化しました。
和紙は他の素材に比べて価格が安く、薄く平らで軽いうえ適当な強度を有し、折り曲げ、切断、接着も自在です。こうした扱いやすさが、型紙素材としての最適だったのです。染色業の技術開発の陰に、和紙という素材産業の発展があったという背景も見落とせません。
染形紙の“本家”ともいうべき伊勢型紙では、ほとんどの場合型地紙には和紙の三大名産地のひとつ美濃の「美濃和紙」が用いられたようですが、三木などでは、一度手習いなどに使用された反故紙(書き損じ)が多く再利用されており、現存する染形紙にもその書き損じの跡が確認できます。

反故紙を用いた型地紙の例。地紙に墨書の跡が残る。

柿渋で耐水・耐久性と防腐効果も強化
染形紙に最適な渋紙製型地紙

染形紙に用いる型地紙は、この複数枚の和紙を漉き目が交差するように柿渋で張り合わせた「渋紙」が材料。これを天日乾燥(一部はさらに燻煙)することを繰り返して強度をより高め、伸縮性を抑えたものが型地紙となります。
渋紙に用いる「柿渋」は、未成熟な青柿の実を圧搾し、果汁を煮詰めて醗酵させたもので、青柿のタンニン成分が酸化することで防水・防虫効果や防腐効果に加え耐久性も高めることから、雨傘の張地や雨合羽などの紙製品や布製品をはじめ漁網などの漁具、建材建具の塗料としても広く利用されました。
なかでも型地紙に用いられる柿渋は、日用品加工に利用される一般的なものよりも水分が少ないために粘度が高く接着力の強いものが使われました。
軽くて耐久性に優れ、束ねて運搬することも容易な渋紙を用いたことで、染形紙は「旅形屋」と呼ばれた形紙の行商人によって全国に市場を広げることができたのです。

■型地紙の製造工程
① 法造り(ほづくり)
200~500枚の和紙を重ね規格寸法に裁断する。
   
② 紙つけ
和紙を漉き目に従ってタテ、ヨコ、タテと3枚重ね、
柿渋を塗って張り合わせる。
   
③ 乾燥
紙つけした渋紙を桧板に貼って天日乾燥する。
   
室干し(室入り紙)
乾燥した紙を燻煙室へ入れ、約1週間燻し続けると、コゲ茶色に変色。
これをさらに柿渋に浸し~天日乾燥~室干しを繰り返す。
   
⑤ 枯らす
屋内で数年寝かせる。

型地紙の素材と製法 ▷型彫りの技 ▷「糸入れ」と「紗張り」 ▷二枚型(返数型)