地子免除の風土が育んだ
反骨心あふれる風刺柄作品

御三家紀州藩の手厚い保護のもとで発展した伊勢型紙や、将軍や新政府のお膝元で栄えた江戸小紋とは対照的に、自治と反骨の地に生まれ、町民の力の強い上方の風土で育まれた三木の染形紙の場合、庶民の目線を反映した体制批判を含んだ風刺柄の形紙も見受けられました。
一見穏当な柄模様に見える右の染形紙は、明治6年(1873)に徴兵令が定められ、国民皆兵の掛け声とは程遠い免役規定の現状を批判した作品です。
上段の扇面に「免許外」とあるのは兵役免除のこと。ほかの表記はあえて当て字や創作文字を用いて曖昧に表現しており、左中段の「木チ害」(=キチガイ)は精神障害で当然徴兵免除。下段の四文字「琴」(=キン)はお金のこと。次は「諸」と「請」の、その次も「盡」と「蓋」(ふた)の合体した創作文字で、最後は画=ガと読ませ、通して「お金を請ければ全てを覆い隠しますが」--と言う意味に。
富裕層の多くが子弟を兵役免除の学校に入学させたり、270円の代人料を支払って徴兵除外になったりすることへの痛烈な批判を込めた意匠です。

徴兵免除を批判した明治期の染形紙
英語の手習いを図案化した染形紙

国際貿易港「神戸」に隣接する
“新しい物好き”が生んだモダン柄も

現在の三木市は、兵庫県の県庁所在地である神戸市北区に隣接する「神戸都市圏」の一員。幕末からの歴史を誇る日本最古の国際貿易港のひとつである神戸を隣町にもつこの町の人々は、早くから外国人や彼らがもたらす海外の文化を身近に感じていたのかもしれません。
明治末期から大正時代に制作されたと思われる右の染形紙は、英語の手習いを図案化したもので、石板(石の板に蝋石(ろうせき)で板書する文具)に記された「アイウエオ」のカタカナに対応するように、画面右上から筆記体で「i」「ro」「ha」「ni」「ho」(=いろはにほ)と英文字が記されています。和綴じ本「たんごへん」(=単語編)は、英単語の教本、左端の棒は教鞭でしょうか。
この他にも、世界地図をやギリシャ数字をデザインした作品も多数あって、目新しい海外の文化に対する旺盛な好奇心が感じられます。

播州三木の歴史 ▷三木の「形屋」と形紙産 ▷京小紋と三木の染形紙 反骨と先進が生んだ独創性