美しく、丈夫で、安全安心
庶民生活のニーズに応える藍染め
藍染めの衣類が日本の庶民に広く愛用された背景には、機能性の高さにもその秘密がありました。
- 美しく鮮やかな青が発色できる
草木染に用いられる植物のなかで、藍ほど美しく鮮やかな青に染め上げられる素材はありません。しかも染めの回数を重ねることで浅黄→藍→紺と彩りを自在に変化させることも可能です。
- 丈夫で色落ちしにくい
衣料品全般が高価だった時代、庶民は古着を贖い、それを幾度も洗って繕って着回すのが一般的でした。藍染めの布は耐久性が増し、色落ち・色褪せにも強くなるため、庶民の衣類には最適でした。
- 抗菌・防臭・防虫効果に加え、難燃性も
藍の原料「蓼(たで)藍」は、漢方の生薬の一種。最近の研究では、抗菌だけでなくウィルスの活性を抑える効果も確認されたほか、藍の染色成分「インディゴ」で染めた米国のデニム製ジーンズは、「ガラガラ蛇除けになる」と信じられたほど強い防虫効果があると信じられ、さらに、保温性が高く燃えにくいことから、右の浮世絵にあるような町火消しの半纏や道中着などにも多く用いられました。
庶民の手に届かなかった高価な藍
蓼藍の増産で実現した大衆化
このように利点も魅力も大きな「藍染め」ですが、もともと藍は平安時代には主に宮廷や上流貴族が身に着ける高貴な色。法隆寺や正倉院の御物の中にも多くの藍染めの布が収蔵されていることからもわかるように、一部の特権階級だけに許された特別な染料でした。
そんな藍染めが江戸時代に広く普及した背景は、なにより原材料の蓼(たで)藍の生産量が増えたこと。質・量ともに全国一を誇った阿波(現在の徳島県)を筆頭に、北関東地方も有力な産地のひとつでした。
江戸時代、この藍と平行して供給量が拡大したのが、藍同様に高付加価値な商品作物として各藩で増産が奨励された綿花・綿糸です。綿の増産で庶民の衣料品の素材はそれまでの麻から木綿にとって代わり、藍染めの木綿製衣類が広く全国に行き渡りました。
こうして増産された藍と木綿が、藍染めの衣類を一般の庶民の手が届く身近なファションアイテムに引き寄せたのです。